東京高等裁判所 昭和42年(行ナ)61号 判決
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〔判決理由〕1 原告の請求原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
《編注》
〔原告の請求の原因〕
一 原告は、登録第七七二、四四二号実用新案「ゴルフ練習用球台」の実用新案権者である。この本件実用新案は、昭和三七年一二月八日登録出願、昭和三九年五月二九日出願公告、昭和四〇年六月二六日実用新案権設定の登録がされたもので、その要旨は、明細書の「実用新案登録請求の範囲」の項に記載されているとおり、
軟質ゴムシートの球台板1の平面にピン8にて高さを異にする円錘台3、4、5、6を先端に有する十字形球台アーム7を回動可能に固定し、球台板1には打球方向を指示する白線2を印刷し、その白線2上に球台3、4、5、6のいずれかを位置せしめ、ゴムヒモ9にて取りつけられたる球10を白線2上の球台3、4、5、6上に載置しその球10を打球して練習するゴルフ練習用球台の構造にある。
二 被告らの先代水越彦一郎は、昭和四〇年一〇月三〇日本件実用新案について登録無効の審判を請求したところ(同年審判第七、一二三号事件)、特許庁は昭和四二年三月二三日本件実用新案の登録を無効とする旨の審決をし、その謄本は同年四月一五日原告に送達された。
なお、審判請求人水越彦一郎は昭和四一年一二月一四日死亡し同人の子である被告らが相続人として審判手続を承継した。
三 審決の理由は、別紙のとおりである。
〔審決の理由〕
本件登録第七七二四四二号実用新案は、昭和三七年一二月八日に出願され、昭和四〇年六月二六日に登録されたものであつて、その考案要旨は、その図面および明細書の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の項に記載のとおりのゴルフ練習用球台の構造にあるものと認める。
なお同項において「……、ゴムヒモ9にて取りつけられたる球10を白線上の球台(3、4、5、6)上の球10を打球して……」とあるのは意味が不明瞭であるが、明細書全体の記載および図面の記載より考えて、これは「……、ゴムヒモ9にて取りつけられたる球10を白球上の球台(3、4、5、6)上に載置しその球10を打球して……」なる意味なりと解する。
これに対し、請求人は甲第一号証ないし甲第三号証を差し出し本件登録第七七二四四二号実用新案は、上記甲第一号証ないし甲第三号証に記載されたものから当業者がきわめて容易に考案することができたものと認められるから、実用新案法第三条第二項に該当し、同法第三七条の規定によりその登録は無効にすべきものである、主張した。
そこで、甲第一号証ないし甲第三号証のものをみるに、甲第一号証の昭和三四年実用新案出願公告第一四二四八号公報に記載されたものは、三角形の頂点に配置した截頭円錘形球台1、2、3をそれぞれ内側に彎曲した弾性体の基板4、5、6によつて連結し、該基板4、5、6と一体の連結片7、8、9の基点に設けたピン孔10にピン11を挿通し回転自在としたゴルフ練習用球台であると認められなお截頭円錘形球台12、3はおのおのその高さを異にしているものであることは図面の第2図より明らかであると認める。次に甲第二号証の昭和三七年実用新案出願公告第一二三八号公報に記載されたものは、表面中央部に長辺方向に平行して多数の凸凹条1を形成したゴム等の弾性体より成るマット2本体の長辺側上面両縁部へ、球台5あるいは高さのそれぞれ異つた略円筒状の球載台7を有す三角型球台6を回転自在に取付けるべく、取付孔3・3……、4、4……をそれぞれ三角状に多数設けたゴルフマットが記載されているものと認める。次に甲第三号証の昭和三二年実用新案出願公告第五七二二号公報には、半球椀状の台座1とボール2との間に適宜長さのゴムまたは合成樹脂製の管3を介在し台座内に嵌合した止子4とボール2とを管3内を通したゴム紐条5により連結し台座1の適所に一端を取付けたゴム紐条6の他端に停止杆7を連結してなるゴルフ練習用ボールが記載されているものと認める。
そこで、本件登録第七七二四四二号実用新案すなわち本件のものと甲第一号証ないし甲第三号証とを対比してみると、本件のものにおける軟質ゴムシート球台板の平面にピンにて高さを異にする球台を先端に有する球台主体を回動可能に固定し球を球台上に載置しその球を打球して練習するゴルフ練習用球台と甲第二号証のものとは一致するものと認める。
しかし、(a)本件のものは円錘台形球台を有する球台主体は十字形球台アーム7を有しているが、甲第二号証のものは略円筒状の球載台を有する三角型球台であり、(b)本件のものは球台板1には打球方向を指示する白線2を印刷し、その白線2上に球台34、5、6のいずれかを位置せしめるようにしているが、甲第二号証のものはマット2には表面中央部に長辺方向に平行して多数の凸凹条2を形成しているに過ぎないし、また(c)本件のものの10球はゴムヒモ9にて取りつけられているが、甲第二号証のものにはこのような記載がない、という相違が両者に認められる。
ところが、(a)の点については、甲第一号証のものは球台1、2、3を弾性体の基板4、5、6と連結片7、8、9によつて連結されてあり、これは本件のものと略同様の目的効果を有するものと認められるので、この相違は単なる構造上の微差に過ぎないものと認められるし、また本件のもののように球台を円錘台形に形成したものは甲第一号証のものに明記されているところである。
また(b)の点について、甲第二号証のものの凸凹条1はマット2の長辺方向に平行して形成されているものであるので、その上に来た球台7上の球を打つとき、その打球方向が一応これによつて指示されることにもなるものと認められるので前記の多数の凸凹条1の代りに球台板1に白線2を印刷するようなことは当業者がこれに基いてきわめて容易に考案することができるものと認められる。
さらに(c)の点について本件のもののようにゴムヒモ9に取りつけられた球を球台上に載置して打球するようにしたものは甲第三号証に明記されているところである。
したがつて、本件のものは甲第一号証ないし甲第三号証のものに基いて当業者がきわめて容易に考案することができるものと認められる。
すなわち本件登録第七七二四四二号実用新案は、実用新案法第三条第二項に該当するものであつて、その実用新案登録は同法同条の規定に違反してなされたものであるので同法第三七条第一項第一号の規定によりこれを無効とすべきものとする。
2 右争いのない事実と甲第二号証本件実用新案の公報とによれば、本件実用新案における考案の要旨は、原告主張のとおりのものであると認められる。
つぎに、甲第四号証によれば、同号証の引例には審決摘示のとおりのゴルフ練習用球台が記載され、また甲第五号証によれば、同号証の引例には、表面中央部に長辺方向に平行して多数の凸凹条―を形成したゴム等の弾性体より成るマット2本体の長辺側上面両縁部へ、球台の取付孔4、4'……を、これに球台6を取りつけたとき球載台7が多数の凸凹条1のいずれかの上に位置するよう多数設けて成るゴルフマットに、高さのそれぞれ異なつた球載台7を有する三角型球台6を回転自在に取りつけた(ピン等により取りつけたものと解される。)ものが記載され、さらに甲第六号証によれば、審決の引用する昭和三二年実用新案出願公告第五、七二二号公報(甲第六号証の引例)には審決の摘示するゴルフ練習用ボールが記載されていることが、それぞれ認められる。
そして、本件実用新案と右各引例とを対比するとき、当裁判所もまた、審決の説示するとおり、本件実用新案はこれら各引例に基づいて当事者がきわめて容易に考案することができたものと認める。
以下審決の判断の違法をいう原告の各主張について順次検討する。
3 請求原因四、(一)、(1)について
甲第五号証によれば、同号証の引例のゴルフマットは、前記のとおりマットの長辺方向に平行して多数の凸凹条を設け、この凸凹条の上に球載台を置くように構成されており、そしてこれにより打球のさいのクラブ先端の衝撃による摩耗を防止するようにしたものであることが認められる。この、マットの長辺方向が打球方向に合致することは明らかであるから、右凸凹条は、それを設けた意図が摩耗の防止にあるにしても、その構成上おのずから使用にさいして打球方向を指示する作用をもつことは、なんぴとにもたやすく理解されるところである。
一方乙第一号証によれば、ゴルフマットに白色等マット本体と異色の打球方向指示線を設け、その線上の球を打球するようにすることは、本件出願当時普通に用いられる方法に属することが認められるから、甲第五号証の引例のマットの凸凹条に代えて、あるいは凸凹条に加えて、打球方向の白線を球台板に印刷し、その上に球台を置くようにすることは、それによつて打球方向の指示が明瞭になるという利点は認められるとしても、当事者にとつてきわめて容易に案出しうる程度のことといわなければならない。
4 請求原因、(一)。(2)について
甲第二号証によれば、原告主張のような作用効果は、本件実用新案の明細書中に明記されても示唆されてもいないことが認められるから、とくに本件実用新案の作用効果として、本件でとりあげることはできない。
のみならず、原告主張のごとき白線2と十字形球台アーム7との結合構成によつて、主張のごとく球台をマットの白線上に簡単かつ正確に位置させることができるものとしても、そのような構成は格別の技術的考慮を要する程の問題ではなく、また主張のようにしたからといつて、その点がとくに改良されるわけでもないと考えられるから、いずれにしても、この点の原告の主張は採用できない。
5 請求原因四、(一)、(3)について
原告主張のような作用効果は、明細書中に明記されていない。また甲第九号証の一ないし五、第一一、三号証によれば、ゴルフにおいて、打球方向線および、これとボールの位置で直交する縦線(打球者の足の位置まで延長したもの)が打球者の両足の位置および向き(スタンス)を決める基線となり、このスタンスの良否により打球の方向の正確さが左右されるのであつて、ゴルフ練習者は、つねにこれらの点を考慮してスタンスのとり方に留意すべきものであることが窺えないではないにしても、甲第二号証によつて認められる本件実用新案の明細書および添付図面の記載から、あえて十字形球台アームのあらわす縦線の仮想延長線をもつてスタンスの基線たらしめるという技術思想がそこに開示されていると理解することは、当事者の技術常識をもつてしては困難であるといわなければならない(甲第一〇号証によれば、原告みずからも審判の手続において、アームを十字形にしたのは、五角、六角として球台をふやすと打球のとき邪魔になり、十字が最適であるから、と主張しているにすぎないことが認められる。)。これを要するにこの点の原告主張の作用効果もまた、明細書のまつたく関知しないところであるから、本件実用新案の作用効果として、ここで問題とすべき限りでないこと前同様である。
のみならず、十字形球台アームのアームの長さ、太さおよび形状等については限定がないこと前記明細書および図面にてらし明らかであるから、その長さ、太さおよび形状のいかんによつては、アームの縦線から練習者の足もとまでの延長線を正確に仮想することは、とくに初心者にとり容易ではなく、したがつて、それによつて必らずしも正確なスタンスをとりうるという作用効果を確実に奏するものとはいいきれない。原告のこの点の主張は、いずれにしても採用できない。
6 請求原因四、(一)、(4)について
前記3のとおり、ゴルフ練習用マットに打球方向指示線を表示し、その線上の球を打球するようにすることが、当事者のきわめて容易に考えうる程度の方法である以上、打球方向指示線の当然、自明な作用効果にすぎない「スイングの基線」となるという作用効果の存在を指摘しても、(それは技術上むしろ打球方向指示線のもつ打球方向指示の作用効果を別の観点から表現したのに過ぎないものといつても過言ではあるまい。)それによつて本件考案の新規性、進歩性を理由づけることにはならない。原告のこの点の主張も採用できない。
7 請求原因四、(二)について
ここで原告が本件実用新案における「回動可能に固定し」の構成内容として主張するところは、この種用具についての技術常識にかんがみ、その主張の全趣旨に徴し、「球台板1の平面にピン8にて十字形球台アーム7を、打球後球台アーム7したがつて球台3、4、5、6のいずれかが、自動的に当初の打球位置に復帰するように設定し」の意味に解するのが相当である。ところで、本件実用新案の明細書の「実用新案登録請求の範囲」にはこの点につき「回動可能に固定し」と記載されているにしても、この用語がこの種用具について原告主張のような構成を意味することが自明であるとはいえないのに、「考案の詳細な説明」の項には、この点の構成については、単に、しかも「請求の範囲」におけると用語を異にし「回転可能に固定し」と説明されているだけで、原告主張のごとき特定構造であることを示すなんらの説示も示唆もされておらず、(例えば最初にセットした球台が、打球のつど自動的に打球位置に戻るようにするためには、球台アームがゴムのような弾性体でできていることが必要であるところ、「登録請求の範囲」の項には、十字形球台アームの材質についてのなんらの限定もされておらず、わずかに「詳細な説明」の項に、「アーム7は軟いゴムで」の説明が見当るだけで、その効用についても「下手にクラプでたたいても破損することなく、」とされているにとどまる。)、また原告主張の特定構造にもとづくその主張のごとき作用効果についても、記載も示唆もされていない。
そしてこれらの点から考えると、本件実用新案における前記の「回動可能に固定し」というのは、原告主張のような構成を意味するものではなく、あたかも甲第五号証の引例におけるように「回転可能ないし回転自在に取りつけ」た構成を指すものと解するのが相当であり、したがつてまた本件実用新案は、原告主張の構成による主張のような作用効果はこれを有しないものとするほかはない。
したがつてこの点の原告の主張も前提において失当であつて採用できない(なお付言するならば、乙第二、三号証によれば、球台アームをゴム等の弾性材料で構成し、これを床面または重錘板に固定し、打球にさいし球台がアームの弾性によりつねにもとの位置に復するようにしたゴルフ練習用球台の構造は、本件出願前から、慣用されていることを認めることができるから、本件のものが仮りに原告主張のとおりであるとしても、単に十字形球台アームにこのような慣用技術を適用したにすぎず、この点に考案が存在するとは考えられない。)。
8 請求原因 四、(三)について
原告が、各構成要件の組合わせにより、各要件が個々にもつ作用効果以外の格別の作用効果を有するとして指摘するところのものは、要するに、ゴルフの打球練習に有用な各種の要件、すなわち打球方向指示白線を印刷した軟質ゴムシートの球台板、高さを異にする四箇の球台を先端に有する十字形球台アーム、ゴムヒモを取りつけた球の三部分を、各球台を白線上に位置させうるように十字形球台アームをピンで球台板の平面に回動可能に固定する方法で、一体に組み合わせたことにより、このもの一台で右各部分のもつ有用性を全部兼ね備えたということに帰着する。すなわち、それは各要件のもつ作用効果の総和にとどまるといわざるをえない。
したがつて、形状、構造の組合わせによる格別の作用効果があるとする原告の主張も採用できない。
9 以上、原告が本件審決の違法事由として主張するところはすべて採用できず、本件実用新案は審決引用の各公知例からきわめて容易に推考しうるものと認められるから、審決の判断は正当である。
よつて、その取消しを求める原告の請求は失当として棄却……する。(古原勇雄 杉山克彦 楠賢二)